苦笑いって本当に苦い時あるんだね

上司は最近購入したばかりのiPhone4を触りながら言いました。

「お前さ、ゴルフしないの?」

上司は、そのまた上司に教えられた、ゴルフのアプリを使っているようでした。

もしくは、まだそのアプリしか使えないようでした。

僕は、今まで社内や得意先とのゴルフコンペというのを避けてきていたのです。


「できれば、人生でゴルフをしないまま終えたいと思っています」


上司との付き合いも、この春で3年目に入るので、慣れてきていました。

挑戦的な、生意気なセリフを言いました。


「それで、お前のサラリーマン人生はうまくいくの?」

上司が言いました。

そのセリフには、毎週のように得意先の重役とゴルフに行っている上司の事を知っているはずの僕が、
サラリーマンとして、部下として。


あまりに責任感の無い発言をした僕に対しての、指摘のようでした。



柔らかい日差しが入ってきた、埋めたて地に立つオフィス。

部屋の空気が僕の中で一瞬止まりました。

上司のセリフに萎縮した訳ではなく。



僕は次に言うセリフをどうするべきか、迷ったからです。



その迷いが、自分の中で部屋の時間を止めたんだと思います。


僕は続けました。


「サラリーマン人生を続けるなら、ゴルフはやるべきだと思います。」


僕のセリフは、ゴルフの重要性はわかっているけども、サラリーマンを続ける気は無い。

回りくどい嫌な言い方だなと、自分で思いました。



上司は慣れないiPhoneの画面操作を続けていました。

上司が触っているアプリは、ゴルフのスコアを入力すると、登録している他の仲間と同期できる仕組みのようでした。



ちょっとだけ。

5秒から10秒かもしれませんが、時間が止まった気がしました。



それは上司がiPhoneの操作に慣れていないからなのか、次に言うセリフを考えていたからなのか。

どちらかはわかりません。




「そうか。」




上司は一言だけいいました。


ただ、今度は明らかに2人の時間が止まったのがわかりました。


さすがに理解力のある上司は、僕の意図をその一瞬で掴んだようで




「何か、あてはあるのかよ??」




上司は少し笑いながら言いました。




僕は苦笑いしながら、答えました。


「さあ・・・その日暮らしになっちゃいそうですね。」



僕は、苦笑いってのを今まで何回して来たかはわかりませんが、「本当に苦い苦笑い」は初めてしました。



昨年の春。

僕は初めて自分でギターを弾いて、歌を歌ってYouTubeにアップしました。

なぜか大仏のお面をかぶって。



僕はよくわかりません。
なぜ、そんなことをやっているのか。


ただ、否定されることもなく、誰かに影響を与えてるわけでもなく。


歌の練習をしています。




地震の後、いつも歌っている、戸越公園にいきました。

節電の影響で、真っ暗。



これじゃあ、夜はしばらく歌えないな。



そう思って、以前調べた商店街の貸しスタジオの存在を思い出しました。

早速行ってきました。


スタジオの前の商店街で、ピアノを弾いている方がいました。



スタジオの管理人さんに聞くと、


「あの人は有名な人で、1万人もの前で演奏したりするんですよ。
私もこの前、観に行ってねえ。。。
あなたも頑張って、それくらいにならなくちゃ〜GAHAHAHA!」



なんて豪快なんだ、商店街のおっちゃん。。


僕は26歳です。まだ、ギターも歌も、初心者も良いとこなんです。



そんな事情は、おっちゃんには言えませんでした。


初めて行った「スタジオ」は名ばかりの、ただの会議室でした。



だけど、暗闇の中でひっそりと歌う事しかできなかった僕は。

初めて電気がついている、

明るい室内で思いっきりギターを弾いて、思いっきり歌いました。

なんて楽しいんだ。



バンドやろうぜ!

なんていう、モテるタイプの中学生だったらとっくに経験している事を。

大人の僕は、いまさら。

心底楽しみました。



僕は、前からやりたくてやりたくてしょうがない。けれども怖くて出来なかった。

路上で歌ってみる決意をしました。



ゆずの「春風」をアップして、1年。


水面下で練習を続けていたからレベルは少しはあがったはず。


と考えていました。



1年前に歌ったゆずの「春風」。


今回歌った同じ曲。



あまり、進歩してないかな。


PCを眺めながら、ちょっと苦笑いしました。


だけど、上司の前でした苦笑いとは違って、そこまで苦くは感じませんでした。


「ゴルフの練習より、歌の練習がしたいです。」


あの時は、そんなこと正直には言えませんでした。



ただ、サラリーマンを辞めてみようかな。

そういう風には思ったのでした。


だいぶ不安だけど、ちょっと楽しみな


26回目の春がやってきました。